新型コロナウィルスの流行によって、これまで感じたことのない不安を感じたり心配な気持ちになった方も多いかもしれません。隔離や自宅待機、新しい生活様式は今までに経験したことがないので、不安に感じやすいのです。むしろ、まったく不安に感じない方のほうが少ないのではないでしょうか。不安を感じることが自然なことだと知るだけで、少しはホッとする方もいるかもしれません。なぜなら、その不安の中には自分の心や身体に『何が起きているのかがわからない不安』も含まれているからです。この不安が強いと、買い物に行くとか、適切なケアを行うといった今の生活において必要なこともできなくなってしまうことがあります。コロナの不安そのものをすぐになくすことはできませんが、自分の心と身体に起きていることを知ることで、不安の量を減らすことができるかもしれません。ここでは、コロナ状況下で私たちの心と身体に起きていることについて解説していきたいと思います。

『自分は大丈夫』という感覚

自分が交通事故に遭うことを考えながら生活している方は少ないと思います。自分は100%事故に遭わない保証というのはどこにもないのですが、私たちはどこかで「自分は大丈夫」という感覚を持っています。
これは錯覚なのですが、この錯覚に守られているからこそ、私たちは毎日事故に遭うことに怯えず生活できています。「自分は大丈夫」という感覚は正常な錯覚で、その人の持つ安心・安全の感覚につながっています。

ストレスとコロナ状況

しかし、事件や事故は私たちの安心・安全の感覚を脅かします。今までテレビや映画の中で起きていたことが現実になり日常の生活がすっかり変わってしまい、「まさか自分が!?」という体験をもたらすからです。地震や津波といった自然災害も同じで、多くの人に同じようなストレス反応を生じさせると言われています。
コロナウィルスの流行は、事件や事故、自然災害ほどは直接的ではないためわかりにくいかもしれませんが、これからどうなるかわからなかったり(『見通し不良』)、自分ではどうすることもできない状況(『不動性』)や、外出自粛や自宅待機要請によっておこる『孤独感』も同じように私たちの安心・安全の感覚を脅かします。こうしたストレス状況は、私たちの心と身体に一定の反応を引き起こすのです。

ストレス状況と自律神経系

私たちはストレスが大きくなると、人とのつながりによって問題を解決しようとします。誰かに助けや協力を求めたり、相手と交渉をしたりするのです。人とつながりを持つ時には、表情や声を使うので、自然に表情や発声を司る神経が活性化します。これは腹側迷走神経(お腹側の副交感神経)と呼ばれており、人とのつながりを促すことでリラックスした状態をもたらします。腹側迷走神経は、交感神経系と副交感神経系のバランスを司る神経系とも言われています。
しかし、人とつながることによって解決できない状況が続くと交感神経が優位になり、ストレスに対して闘うか逃げるか――という興奮状態へと身体のモードが切り替わります。このモードに入ると、不安や緊張、イライラが強くなります。
さらに、人とつながることによって解決ができず、闘うか逃げるかの興奮状態(交感神経モード)が長く続くと、今度は背側迷走神経(背中側の副交感神経)が優位な状態になります。背側迷走神経は睡眠や身体の回復に関わる神経で、普段は省エネモードで心と身体のエネルギー回復を促すのですが、これが過剰になると感覚が麻痺し、無感覚・無感情の状態になります。頭がボーっとして、何も考えられないし、感じなくなる状態です。省エネモードが過度になった状態です。

身体のモードを踏まえたケアをしよう

ここで、あえて「腹側迷走神経と交感神経の間を行き来しやすい」と表現したのは理由があります。コロナ状況下で生じる不安や心配というのは、交感神経系の高ぶりによって生じているのですが、2つの神経系のモードを行き来しやすい状態であるならば、セルフケアが効果的だからです。
今回紹介させていただく『呼吸法について』は交感神経系の高ぶりを静めてくれたり、腹側迷走神経の働きを優位にしたりと、自律神経系のバランスを整えるものです。
たまにはボーっとすることも大切です。ボーっとすることは、神経系の興奮を和らげてくれます。『ボーっとすることのススメ』を参考にしてください。
交感神経系が優位な状態が続くと、いずれガス欠が生じ、過度な省エネモードに切り替わり身動きが取りにくくなります(背側迷走神経が過度に優位な状態)。
ですが、過度な省エネモードに陥っている方にも、セルフケアは有効です。特に、胸式呼吸はおススメで、これは腹側迷走神経を鍛える呼吸法でもあります。生活リズムを整えることも効果があります。生活リズムを整えることは、省エネモードによって心と身体のエネルギーが回復することを助け、背側迷走神経の活動を適度な状態にしてくれます。『私の生活リズム表』を参考に自分の生活を組み立ててみるのも方法です。ケアには合う、合わないがありますので、はじめのうちは「これが良さそう」「これならできるかな」と自然に思えるものから選ぶのが良いでしょう。少し余裕が出てきたら、興味や関心、心が惹かれるものを選んでみましょう。それが、その時の身体のモードに合ったケアを選ぶコツです。

コロナ状況下における不安や心配・イライラは、単に気持ちの問題というわけではありません。確かに、ストレス耐性には個人差があり、ものによっては個人の捉え方・考え方で乗り切ることが可能なものもあります。
しかし、コロナ状況下における不安や心配というのは、単に捉え方や考え方の違いによってだけで起きているものではありません。それは、個人差を超えたストレスによって、心だけでなく、私たち人間に共通する身体のメカニズム(自律神経系の働き)によって起きている現象です。
不安を感じることを不安に思わなくてもいい。大まずはご自分に合ったケアをしていきましょう。気が向くもの、やってみようかな――と思えるものから選ぶと良いでしょう。やってみて、いい感じがするもの、しっくりくるものを選んでいただければと思います。